バンビと野獣


雨は時折、パラパラとテントのフライシートを叩いた。中に音が響く。
念のため荷物をタープの下に移動し、バッグにはカバーをかけた。
どうしても目が冴えてしまう。
雨がやんだら、今度は猿だろうか、何か動物の鳴き声に起こされた。
ライトで木陰を照らしたり、石を投げたり、バイクのエンジン音で脅かしたりして追い払った。
何が来てもここで寝るしかないのだ! 一晩でいいから邪魔させてくれ!
鳴き声もなくなり月明かりも出てきて、ほっと一安心。
だんだん深い眠りに…落ちて…
午前二時過ぎ、ものすごい豪雨!
離れた場所で落石の音も響く。 こうなったら捨て鉢な気分で眠りに集中するしかない。
…やがて外が明るくなり…
夜が明けたらすっかり晴れてた。バイクも荷物もタープに守られ無事だった。
それにしても、やはり山中の野宿は緊張感がある。ぶっちゃけ怖いが、それが面白いんだろうな。
さて、朝飯は納豆ご飯とさんまの蒲焼きの缶詰。
ご飯を炊いて、さっさと食って片づけて。
のんびりしたいとこだが、いつまた雨が降り出すかわからない。
晴れてる間に 撤収を済ませるため、だいぶ急いだ。
顔を洗って髭を剃って水を汲んで出発。

なぜか梨がえらくまずかった…

なぜか梨がえらくまずかった…

山の天気は本当に変わりやすい

山の天気は本当に変わりやすい

そこからの林道も長かったが、走りにくくはない。
ところどころ展望も開けている。早朝の冷たい風を切り裂きつつ、雲海に埋もれた尾根道を爽快に駆け抜けた。

ヘソねぇ…

ヘソねぇ…

山はキャンバス、雲は絵の具、そして風は芸術家

山はキャンバス、雲は絵の具、そして風は芸術家

走っていると、そこかしこで路肩の崩落や落石がある。
ガードレールが根こそぎ倒れていたり、大きな落石でひしゃげてしまってたり。
一度だけ、小さめの石がヘルメットに当たったりもした。
とは言え、普通に気をつけて運転していれば、たいした危険はない。
カーブを曲がりきれなかったら谷底にまっさかさまなので、いやでも安全運転になる。

こういう道が続いてます

こういう道が続いてます

こんな場所を通ってます

こんな場所を通ってます

見下ろせば底知れぬ谷間

見下ろせば底知れぬ谷間

川成峠 道案内の看板

川成峠 道案内の看板

川も多かった。山襞に切り込んだ道の一番奥まった場所は大概滝になっていて、その度に見事な渓相に見とれてしまう。
川の近辺には四輪が駐車されてることも多かったが、おそらくアマゴかイワナ釣りだろう。
ここなら魚影も濃いに違いない。実にうらやましい。

滝はそのままで感動を与えてくれる

滝はそのままで感動を与えてくれる

きれいな水、それだけで十分

きれいな水、それだけで十分

なんとも美しい渓相です

なんとも美しい渓相です

尼子か岩魚がいるのかなぁ

尼子か岩魚がいるのかなぁ

そういえば鹿にも三回会った。昨日に続いて猿も見かけた。
四国は想像以上に動物が多い。
猟銃を持ち、犬を連れたハンターもちらほら。
いきなり黒い大型犬に出会ったときは、本気で熊かと思い、かなりびびった。
そうこうしてるうちに、ようやくスーパー林道も終わりに近づいた。

鹿 振り向きざま、シャッターで目が光った

鹿 振り向きざま、シャッターで目が光った

剣山トンネル ここまで来ればあとわずか

剣山トンネル ここまで来ればあとわずか

渓流があると、ぼーっと眺めてしまう…

渓流があると、ぼーっと眺めてしまう…

終点 長かったような短かったような

終点 長かったような短かったような

林道の全行程を走り終え、今度はいよいよ太平洋側を目指す。
地図を見ると、安芸市へ抜ける道がある。で、また林道。
峠にさしかかるあたりで、 ダートから舗装路に。そこで雨が本格的に降り出した。
トンネルを抜け、いよいよ高知県。
降りしきる雨の中、颯爽と海までの道のりを…

…あれ?

…あれ?

安芸に抜けるまでに3回転びますた…。_| ̄|○ 
四国に着いてからここまで、未舗装路をかなり走ってきて、まだ一度もこけてなかったのに舗装路で…。
一度目はカーブの小石。二度目は路肩の苔。三度目は坂道Uターンでたちごけ。
とくに二度目がひどく、アスファルトに火花を飛び散らせながら、五メートルくらい横滑り。
反対側の路肩で草刈りをしていた夫婦をよけるため、徐行したのにこのざまだ。
気持ちいいくらい滑走する僕とセローを見て、 夫婦が目をまん丸にして驚いてた。

右ステップが変な具合にねじれてません?

右ステップが変な具合にねじれてません?

何か、滑走したあともありますね…

何か、滑走したあともありますね…

右側のステップがグニャリとひしゃげてしまったものの、その他は力ずくで直せた。
曲がったステップも足を乗せる分には問題なく、タンデムステップを移設するまでもない。
体のほうも肘と膝にかなりの擦り傷を負ったが、 走れないほどの怪我がなかった。不幸中の幸いである。
悲しいのは レインスーツのひざに穴があいてしまったこと。
こないだ破れたのとは別のやつだったのに…。
防水パンツが次々と失われていく運命を嘆きつつ走行再開。
雨の日は滑りやすい…と… ”φ(・ェ・o)~メモメモ
以後、一層安全運転に気を使った。
太平洋が近づくにつれ、天気はどんどん回復。
海に着く頃には、抜けるような青空が頭上に広がっていた。
初めて見る土佐湾はとても美しい海だった。
深さを宿したエメラルドグリーンの水面を白い波頭が次々と駆け抜ける。
それにしても、むちゃくちゃ暑い。雨の心配も全くなさそうなので、ジャケットを脱ぎ半袖で海沿いを快走した。
そして午後二時。 四国の東南のはずれ、室戸岬に到着。大きな岩がごろごろしていた。

南国の海、歓迎ありがとう

南国の海、歓迎ありがとう

室戸岬 波が威勢良く岩にぶつかってた

室戸岬 波が威勢良く岩にぶつかってた

ほんの少し散策して、そそくさと室戸岬を後にし、今度は桂浜を目指す。
実は、ここに着くまで昼飯を食べてなかったため、とても空腹だったのだ。
地図で紹介されていた道の駅のレストランを予定していたのだが、行ったら休業だったのである。(そんなんばっか)
とりあえず 桂浜へ向かう途中の別の道の駅で冷やしうどんを食べて空腹を紛らわした。
土佐湾に沿って走る国道55線を西進し続けて、午後四時すぎ。ようやく桂浜に到着。
駐車場にバイクを停めてたら、後から見覚えのあるバイクが来た。
フェリーで乗り合わせたドラッグスター(ヤマハのアメリカンタイプのバイク)じゃないか!
声をかけたら、やはりそうだった。奇遇だ。とりあえず竜馬像を共に見学した。

「竜馬が行く」読んだ?

「竜馬が行く」読んだ?

桂浜 遊泳禁止です

桂浜 遊泳禁止です

散歩中の土佐犬 でっけー!

散歩中の土佐犬 でっけー!

砂浜に降りて「ここで野宿できるかな…」などと考えつつ、さっきのドラッグスター乗り(以下、ドラスタ乗り)に
今日の宿泊予定を聞いたら、ライザーズインに泊まるつもりとの返事。
高知県にはライダーズインという簡易宿泊施設が存在する。
三〇〇〇円程度で泊まれるが、設備はシャワーとトイレくらいしかない。
実は僕も、今日はいざとなったらそこに泊まろうかと思っていたのだ。
台風も近づいているし、豪雨は避けたかった。怪我の具合も気になるし。
で、結局一緒に向かうことにした。場所はライダーズイン・中土佐
黒潮街道を、お互い勝手に進んだが、それにしてもずいぶん遠い。
途中、須崎という町でスーパーによって酒と食材を買い出し。ガソリンも補給。
その後もグングン進んで、ライダーズインの看板を発見。
案内の看板に従ってさらに入り組んだ道に入り、ようやく到着したのが19:30。
なんとか間に合った。さっそくチェックイン。
とりあえず部屋のシャワーで汗を流した後、生ビールを飲みに管理棟へ。
ドラスタ乗りが酒を飲みつつ弁当を食べてたので、なんやかや駄弁った。
…フェリーで会ったドイツ人。
ドラスタ乗りとも仲良くなったらしいが、やつが 徳島へ降りた直後、交通事故にあって自転車が全損したらしい…。
幸い本人は無事だったらしいが、まったく日本語ができないため、ドラスタ乗りが英語で通訳して警察や病院とのやりとりなど手伝ってあげたそうだ。
そりゃ、お疲れ様でした。
…僕も事故だけは気をつけねば…。
管理棟は20:00で閉鎖。
なので、その後は僕の部屋へドラスタ乗りを招き、今度は日本酒。
僕の夕食は鰹のタタキのつもりだったのだが、買った切り身がでかすぎた。
酒でかなり腹がくちくなってたこともあり、食べきれずにほとんど捨ててしまった。
うーん、今でも悔やまれる。
その後、夜更けまでドラスタ乗りと飲みつつ二人きりで談笑。
そうそう。
そのドラッグスター乗り。
実は女性なのです♪

土佐の夜更け、ここにも動物が一匹。
…そう、女に飢えたオス犬が…



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