誰も寝てはならない


なんだかこんな声が聞こえたような気がした。
『もう眠れないぞ。マクベスは眠りを殺した。』
           - シェイクスピア 「マクベス」より -

すでに日付は変わっていた。私は件のベンチで深い眠りに落ちていた…。
…おい
…おい
熟睡してる私を揺り動かす声…
…誰だろう…おまわりさんか…?
「おい、あんた寝ちゃったのか…? こんなとこで寝たら風邪引くぞ」
仰向けのまま、街頭の明かりにまぶしい目をしばたかせつつ、相手の顔を確認した。
…お、おっちゃん!?
さっきの犬連れた、おっちゃんぢゃねーかっ!! ∑( ̄[] ̄;)!!
「あ、これ、さっきの犬の親。」(一日目の写真はこの親の方です)
「あ、そ…そうなんですか」
(…いや…あの、気持ちよく熟睡してたんですけど…ものすごく眠いんですけど…)
まいった。また身の上話のリピートだ。お人よしの私は(早く帰ってくれよ)と思いつつもフンフンうなづいている。
そのうちいなくなるだろうと思っている私に、おっちゃんは「家に泊まってけ」と言い始めた。
…どうしよう。 無論、見知らぬ他人を泊めるなんて、泊める方も泊まる方もそれなりの覚悟が必要だ。
それにしても、なぜか昔からこういう人に好かれやすいんだよなぁ…。
さすがにしばし躊躇したが、【行動しなかったことを後悔するより、行動したことを後悔する方がまし】が私のモットー。
おまけにここの愛読者である。良くも悪くも思い出にはなるだろう。行くっきゃない。決断。
いつまでも帰りそうにないなら、大人しくおっちゃんの家で寝させてもらった方がいいし。
「では、お言葉に甘えて、お世話になります」とお邪魔させてもらうことにした。
すぐそこだからと言われ、寝静まった民家の間を縫うように走る細い路地を、えっちらおっちらバイクを押して歩いた。
… かなり遠かった。おまけに坂道だった。汗だくになった。だんだんどうでもよくなった。
ようやくおっちゃんの家に着き、バイクを庭先に置かせてもらい、茶の間に上がらせていただいた。
木造平屋建て。築40年だそうだ。
たしかに古めかしいが,、いかにも漁村の民家という風情のお宅である。ちなみにボッチャン式便所。
外では、さっきの犬が自分を差し置いて家に入れてもらう私を見て、嫉妬からかギャンギャン鳴いている。
静寂に包まれた住宅街に、狂ったようにリーの声が響く。かなり痛い。
戸棚の上の時計をみたら午前1時だった。
まぁ一杯と缶サワーをいただき、 またおっちゃんの身の上話。
お世話になるのだからと、多少の義務感にかられ、しばし拝聴。
話し相手を確保して上機嫌なおっちゃんは、より饒舌になり、これまで以上にディープなお話をして披露くれた。


…刑務所に2年半入ってたらしい。(;´Д`)初耳だよ…
酔っ払って知り合いを殴って、取調べでちょっとごねたそうだ。んで傷害と公務執行妨害。
初犯だとしても実刑2年半って、相当やヴぁい殴り方だったのでは…?ガクガク((((;゚Д゚)))ブルブル
正直、それを先に聞いていたら来てなかっただろう。酒乱相手に煮え湯を飲まされた経験があるし。
ここは早めに寝て、さっさと退散するに越したことは無い…。というわけで早々に寝させてもらうことにした。
おっちゃんとしては 話し相手が欲しくて私を呼んだのだろうが、こっちも睡眠時間と命が惜しい。
翌朝は日が昇り次第出発したい。遅くとも5時には起きるつもりなので、今から寝なおしても4時間しか眠れない。
おっちゃんには申し訳ないが、その旨を話し、先に休ませてもらった。
「おう、俺もいつも5時に起きてっから、起こしてやるよ」
期待せずに携帯電話のアラームをセット。とにかく朝になったらすぐお暇しよう…。
ベッドの上でおっちゃんの匂いのする布団にくるまり、目を瞑り眠ることに集中する。
耳障りな犬のヒステリックな鳴き声と、「おっちゃんに寝込みを襲われないだろうか?」という恐怖を押し殺し、
ひたすら眠ることに集中する…。そしてようやく…

…おい
…おい
熟睡してる私を揺り動かす声…
…デジャヴ…!?
「おい、起きなよ、もう時間だよ」
嘘だろ!? (´Д`;)
外を見れば真っ暗。枕元の時計を見れば、何とまだ午前2時半じゃないか。
時計が狂ってないとするなら、床についてからまだ一時間しか経っていない。
酔っ払いには何を言っても無駄だろう…。
「朝飯、食ってけ」
ちゃぶ台にはご丁寧にもご飯と味噌汁と生卵。ありがた迷惑とはよく言ったものだ。
私の今のプライオリティは食事より睡眠。眠るには、とにかくこの場所から離れねば。
「いえ、本当に結構ですから…お世話になりましたっ!!」
お礼を言いつつバイクにまたがり、逃げるようにおっちゃんの家を出発した。
お邪魔した際に渡した名刺が気になるが、たぶん酔いからさめたら私を家に入れたことすら忘れてるだろう。
国道に出たが、さっきのベンチではまたおっちゃんが来かねない。
夕方同様、寝床を探しての南下が再び始まった。まさかこんな時間にこんな目にあうとは…。
さすがに深夜は道が空いている。15分ほど走り、何個めかの道の駅でよさそうな場所を見つけた。
海べりの広場の真ん中に屋根付ベンチ。風は強いが眠れないことはなさそうだ。
一刻も惜しい私はバイクを横付けにし、早速横たわる。
夜明けまで時間がないが、ここなら誰にも邪魔されずに眠れ…

バカっプルが花火しに来ましたっ!!(つД`)
こんな時間に何してんだよ。(人のこと言えないが)
嬌声で気が散りなかなか眠れない。そのうち夜明けが近づくにつれ風も強くなって来た。
道の駅内で場所移動しているうちに東の空から少しずつ明るくなって…。
結局ここでは一睡もできなかった。昨日から累計して2・3時間しか寝ていない。
これはマジでやヴぁい。こんな状態で一日中運転していたら確実に事故る。
計画を大幅に省略し、今日はなるべく帰宅を急ぐことにした。
房総一周という目標は死守したかったので、早速出発。空いてるうちに距離を稼がねば。

朝焼けが寝不足の目にまぶしかった

朝焼けが寝不足の目にまぶしかった

花咲き誇るフラワーラインに目もくれず、とにかく先を急ぐ

花咲き誇るフラワーラインに目もくれず、とにかく先を急ぐ

南房から太平洋に飛び出ている須崎をぐるりと巡り、東に進路を取る。
姿をのぞかせ始めた太陽を真正面ににらみつけ、目を細めながらもアクセルを緩めることはない。

こういう日に限って晴れるのはなぜ?

こういう日に限って晴れるのはなぜ?

ロープウェイで上りたかった鋸山。
小説「千里眼」を読んで以来、一度来てみたかった東京観音像。
温泉に林道。館山の海の幸。
内房に散らばる観光ポイントに再訪を誓いながら、大慌てで通り過ぎてゆく。

鋸山の崖で猫が馬鹿にしてました

鋸山の崖で猫が馬鹿にしてました

小説「千里眼」のキーポイント 東京観音

小説「千里眼」のキーポイント 東京観音

そして、内房の北の終点、富津岬にようやく到着。
三浦半島の観音崎と向かいあい、東京湾を囲む細長く西に伸びた岬である。
先端は公園になっていて、潮干狩りもできる砂浜と手入れの行き届いた芝生がある。
時刻は午前7時。 テントを張って一夜を明かしたらしい家族連れもちらほらいる。
東京湾の向こうには都心の高層ビル郡も眺望できた。

東京湾なのでさすがに誰も海水浴はしてない

東京湾なのでさすがに誰も海水浴はしてない

ちょっと日本ぽくない風景である

ちょっと日本ぽくない風景である

さて、ここまで来れば、あとは多少混雑しても自宅までそうかからないだろう。東京アクアラインを使う予定だし。
ということで東京に戻る前に仮眠を取ることにした。2・3時間でも眠れば、かなり体力回復するだろう。
手ごろな芝生にマットを敷き、眠る。さすがにすぐ寝付いた…

…ガヤガヤ…
…きゃはは あはは
うるさいっ!!!(゚Д゚#)
一時間も経たないうちに家族連れの団体さんがすぐ隣に来て騒ぎ始めた。
私から2、3歩しか離れてない場所で落ち着くつもりらしく、シートなど広げている。
意地でも眠ろうとしたが話し声が気になり、どんなやつらだろうかと目を開けて見ると、複数の家族連れの団体だった。
ん? 観光バスを貸しきりで? 何か変じゃない? 普通の家族連れと違うんじゃない??
話し声に耳を澄ますと

「兄貴ー、こっちあいてますぜーっ!!」
「塾長も、ここ座って飲んで下さいよ!!」
そしてバスには「○和会 御一行様」。
右翼(ヤクザ?)の家族連れ親睦旅行かよっ!! ガクガク((((;゚Д゚)))ブルブル
そのまま無理して寝ようかとも思ったが、ダンボールで山積みされたアルコールを見て断念。
酔って、からまれたらシャレにならん。
眠るのを諦め、出発。まだ午前8時…。
睡眠よ…あぁ…愛しい安息のひとときよ…
安眠は僕にいつもたらされるのだ…
それとも何かに呪われてるのかっ!? 。・゚゚・(つД`)・゚゚・。
木更津経由で東京アクアラインに乗り、海ほたるで朝食。

海ほたる 地下にショーグンと呼ばれる男が…(嘘

海ほたる

東京湾に浮くバブルの象徴 アクアライン

東京湾に浮くバブルの象徴 アクアライン

川崎に出て環七をぐいーっと来て、自宅に到着したのが午前10時40分…。
そのまま畳の上で爆睡!!
教訓:野犬より酔っ払いの方が怖い



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