「三宅島に行ってみませんか?」
暮れも押し迫った12月中旬、四文屋中野店での出来事である。
目の前で生ビールを煽っているのはMr.Mudさんと怪人M氏。
成人の日を含む正月の三連休の行き先に話題が及び、僕がこう話を切り出すと、
無類の釣り好きでもある林道仲間二人はすぐに乗ってきてくれた。
「いいスねー! 行きましょう!」
まずTプロジェクトから帰ったばかりのMUDさんが、ガツ刺を頬張りながら応じた。
三宅島には2000年の大噴火前に林道走行のため、赴いたことがあるそうだ。
とはいえ、今回は釣りメインの旅になることだろう。
「大物用の仕掛け、準備しなきゃ」
かつて大島へ同行してくれた怪人M氏も乗り気十分である。
真冬の海釣りだというのに、キャベツを齧る姿には迷う気配が微塵も無い。
焼トンや煮込みライスを貪りつつ、その夜は大いに盛り上がった。
かくして動き出したのが、外道バスターズによる今回のMプロジェクトである。
っと、レポートの前に三宅島の現状について触れておこう。
知っての通り三宅島は2000年の雄山大噴火で壊滅的な打撃を受けた。
昨年2005年の2月にようやく全島避難が解除され、住民が一部帰島。
生活基盤は徐々に復旧し、5月から観光客も受け容れ始めた。
とはいえ、まだ純粋に観光を楽しめる状況とは言えない。
滞在中はガスマスク必携で、立ち入り禁止区域も多い。
実質、釣りかダイビングしか目的になり得ないだろう。
そんな状況だが、それでも僕はバイクを持ち込み林道探索をすることにした。
事前に観光協会に問い合わせたところ一周道路は全線走行可能とのこと。
高濃度地区は停車せず通過だけならバイクでも自転車でも一応OK。
メインの林道雄山環状線は復旧に従事する車両が通行。
現地の人の迂回路として一部区間は通行が黙認されているらしい。
「とは言え、実際に行ったことは無いので、定かではない」との断りつき。
Mudさんからも噴火前の貴重な林道情報を提供していただいた。
さらに最新の2万5千分の1形図にGPSで準備万端。
火山性ガスの危険度を考え、今回はモゴモゴ無しで挑んだ。
そして1月6日の金曜日。
そそくさと仕事を終わらせ、自宅へ戻り、バイクに荷物を積んで出発。
怪人Mさんと合流して竹芝桟橋へ。
予約したチケットを受け取り、バイク輸送の手続きも完了。
そのうちMUDさんも到着。竿とタックルの大荷物だ。
22:30、竹芝桟橋を出港。さっそく3人で乾杯。船旅はのんびりできて良い。
釣りの話で盛り上がっていると、すぐ側の男性が会話に加わってきた。
YANAさんと仰り、こちらの釣り情報サイトを運営しているとのこと。
本格磯釣り師と陸っぱり外道釣り師とでワイワイと交流を深めつつ就寝。
明けて、1月7日。
5:00、かめりあ丸がまだ暗い錆ヶ浜港に到着した。
5:15、セローとBAJAを受け取ってホテル海楽に移動。
全島キャンプ禁止なため、今回はここに部屋を取った。
YANAさんも同じホテルの宿泊だった。支配人さんと磯釣りに出かけるそうだ。
朝食の準備ができるまで、とりあえずロビーで待機。
以前の大島での教訓を踏まえ、今回はちゃんと朝食を予約した。
5:30、名前を呼ばれた。
「そとみち…様…?」
「『げどう』です。外道バスターズです」
テーブルにはちゃんと予約名『外道バスターズ』と書かれた紙が置いてある。むはは。
席に着くとすぐに食材が並べられた。納豆、焼き魚、生卵、味付け海苔。正統派の朝飯だ。
バクバクと食べ、味噌汁と御飯をおかわり。滞在中、とにかくよく食べる三人だった。
食べ終わる頃には外も明るくなっていた。
ホテルのチェックインは午後だが、荷物だけ置かせてもらえた。
詳しくは釣り編で触れるが、釣り人に親切な宿だった。
安くてサービスも良く、おすすめである。
ちなみにネット予約だと300円お得♪
食事を終え、錆ヶ浜港で二人が竿を出すのを見届けてから、僕は単独で島探索を開始。
ネタばれになってしまうが、こちらが探索結果をまとめた三宅島林道MAPである。
三宅島一周道路(全線で約38km)を走りながら、めぼしい林道を探索してみた。
雄山を巡る林道雄山環状をはじめ、残念ながらほとんど走行不可だったが…。
7:00、まずは阿古林道に到着。残念ながら全線舗装だ。
火山性ガスの影響だろうか、辺りの立ち木は軒並み枯れ果てている。
カーブをいくつか曲がり、やがて雄山の雄姿が露になった。冠雪している。
路肩にも白いものがチラチラ見え始めた。うーむ。
南の島だと思って油断していたが、この辺りでも積雪するのか…。
林道雄山環状線に合流する手前で何やら怪しい雰囲気。
そうっと停車して靴で路面が擦るとツルツル…、明らかに凍結していた。
こりゃやばい。退避。前後ブレーキをロックしてもズルズルと後退してゆく。
両足でバランスを取りながらグリップする位置まで降りた。ふぅ。
Uターンして阿古林道を三宅島一周道路まで戻る。
御蔵島や三本岳の眺めが良かった。
7:30、阿古林道起点の向かい側にある鳥居を潜り富賀神社付近へ参拝。
由緒書きには伊豆七島の総鎮守、三島大社発祥の地と説明されている。
社殿も社叢も荒れ果てているが、新年のお供え物に少しだけ心が和んだ。
一周道路に戻り、反時計回りに島を巡る。
阿古林道のすぐ先に高濃度地区の看板があった。
観光協会に言われたとおり、通過に専念。
7:40、阿古高濃度地区を脱出。
7:45、アカコッコ館をスルーして、すぐ先の大路池の看板を左折。
道はやがてダートになり、池を半周して水辺に至る。桟橋の表面が凍っていた。
MUDさんによると以前はこの池にブラックバスがいたらしいが、今はどうなってるのだろう?
心無い釣り人による不法放流が、こんな離島にまで及んでいることに憤りを禁じえない。
ダートは往復で2kmにも満たないが、結構楽しめた。
8:00、長太郎池という看板があったので、ちょっと寄り道。
巨大なタイドプールらしいが、どこがそれなのかよくわからん…。
ここらへんでポツポツと小雨が降り始めた。
8:10、坪田林道の起点に到着したが入口がチェーンで塞がれていた。
脇抜けも可能だろうが、復旧作業の邪魔になりかねない。
オフローダー全体の評判も考え、非常識なことは謹んでおこう。
代わりといっては何だが、坪田地区から北へ伸びる道が地形図にある。
気を取り直して、そちらへ向かってみた。
GPSを頼りに路地を進んで、8:15、未舗装路の起点に到着。
火山灰らしき路面が森の奥へと伸びている。
進んで100mほどの位置に「高濃度地区」の看板があった。
この辺りから立ち枯れした森が一面に広がり、大噴火の影響を目の当たりにさせられる。
枯れ木も山の賑わいと言うが、禿山の方がまだ親近感を抱けそうだ。
雨は何だか氷の粒に変わった気がする…。
1km弱進んだところで、一本の道と交差。
横切って進むとすぐに砂防ダムがあって「立入禁止」。
交差点に戻って内陸へ登る道を進む。
ガスのせいか灰のせいか、針葉樹の表皮が軒並み無残に剥けている。
荒涼というには余りに痛々しく、天候のせいもあって不気味にさえ感じる…。
こちらも600mほどで行き止まり。終点は土砂が流出する現場だった。
交差ポイントから降る道は舗装されている。
少し降ると、左に分岐する未舗装路があった。
幅広の道なので期待したが、700mほどで行きどまり。
高濃度地区なのであまり長居はしたくない。すぐもとの道に戻る。
8:35、一周道路に合流、目の前は三宅島空港だ。
高濃度地区のため、現在でも閉鎖されたままである。
僕は船旅が好きだが、やはり島の発展のためには空路も必要だろう。
自然が相手のことなので如何ともし難いが、一日も早い復旧が望まれる。
一周道路を北上すると、すぐ左手に三宅村役場があった。
ここの庁舎もやはり使えず、中学校の校舎を臨時庁舎として使用してるらしい。
役場の前を右に折れると三池港である。
風向きによって、客船の発着がこの港になることもある。
岸壁まで降りるとサタドー岬が見えた。
三池浜を北上して、三七山の展望台で写真だけ撮影。
浜も山も火山灰で、とにかく黒い。高濃度地区なのでそそくさと移動。
霰はまた雨に戻ったようだ。
9:00、ようやく坪田高濃度地区を脱出。ふぅ。
下馬野尾から火の山峠に抜ける道は、入口で工事車両の交通整理中だった。
邪魔になってはいけないので、ここはスルー。
9:05、土佐林道の分岐を左折し舗装路を登ったが、ここも数百mでチェーン封鎖。
うーん、残念。
地形図では神着の集落から雄山環状線に抜けるルートがあった。
念のためそちらもチェックしてみたが路面は泥で埋まり廃道と化していた。
途中にあった公園に銅像を見かけた。
火山ガスに含まれる硫黄の影響か、半身に黄緑の錆が浮いている。
後で調べたところ、浅沼稲次郎という三宅村・神着出身の政治家の像だった。
安保闘争時代の社会党委員長で、最期は右翼の少年に暗殺されたらしい。
激動の時代だったんだねぇ…。
この辺りはかなり念入りに探索したが、なにも収穫はなかった。
時間を結構消費したと思ったのだが、すでに半周してるんだよなぁ…。
9:40、大久保浜へ降りてトイレ休憩。
海水浴客向けなのか公園など立派な設備である。
キャンプには持って来いなのだが、残念だ。
9:45、伊豆の集落から伊ヶ谷林道へ抜けるルートへ。
農道伊豆上道線の表記を見かけたが、区間によって名前が異なるかもしれない。
9:55、伊ヶ谷林道に接続。ここの手前200mくらいが未舗装だった。
左折して、さぁ登ろうと思ったら目の前にチェーン。残念。
舗装路を降って伊ヶ谷の集落に出た。この時点で10:05。
すでに三宅島を4分の3周してしまっている。時間が大幅に余りそうだ。
一周道路をちょっと逆走して伊豆岬へ寄り道することにした。
雨もいつのまにか止んでいた。
伊豆の集落で伊豆岬方面へ降る道を左折。
海岸からは神津島が遠望できたが、風が強すぎてくつろげず。
10:15、一周道路へ戻って、探索を続行した。
10:20、内陸に登る分岐を発見。
「清水線」などの道標があったが農道だろうか?
1km程度で路面崩落による行止り。
最後の100mくらいは未舗装だったが、うーん…わざわざ行く程でもないなぁ…。
10:40、阿古の集落を内陸に上り、今度は南戸林道へ。
牧場に出た、と思ったところでチェーン。
ここまでの区間は全て舗装済みだったが、途中の眺めは良かった。
路肩の真っ黒い土砂や眼下に見える黒い帯は1983年の溶岩流の跡だろうか。
10:55、阿古の集落まで戻り、南下。
11:00、今朝ダメだった阿古林道へ再挑戦。
雨のせいもあって、すでに凍結はなくなっていた。
雄山環状線に合流するポイントでやはりチェーンが張られている。
とりあえずそちらは置いといてチェーンの無い方へ。
廃墟と化したレストハウスの脇から伊豆七島展望台へ至る道を進んだ。
路肩には雪が所々残っている。
展望台は強烈な風が吹き付けていた。
っと、雄山環状線の方を見ると乗用車が走っていた。
停車してチェーンや柵をどかして通行している。
なるほど、地元の人の迂回路になってるのは本当らしい。
先ほどのチェーンのとこにも「伊ヶ谷方面迂回路」という看板があった。
急いでチェーンまで戻ると、丁度、先ほど見えた乗用車が通過しているところだった。
誘惑に負け、僕もちょこっと通行してみることに…。
復旧作業中らしく、舗装路と未舗装の迂回路が交互に現れる。
未舗装部分は火山灰ですこぶる走りやすい。大島の裏砂漠を思い出す。
11:25、伊ヶ谷林道との合流地点でまたチェーンが張られていた。ここまで約2km。
林道雄山環状線の続きを一見したところ、ここから本格的未舗装路になってるようだ。
だが、今回はここまで。来た道を戻り、11:30、林道雄山環状線を退出した。
今から約一年前に石原都知事が三宅島一周道路を使ってのバイクレースを提案した。
実現は難しいだろうが、なかなか面白い案だと思う。
林道を使ってのエンデューロレースや流行のモタードなんかの方が現実的かもしれない。
いつの日か、林道雄山環状線を心置きなくグルリと一周走れる日が来るだろう。
いや、一周どころかグルグルとバターになるまで回ってみたいものだ。
そして緑豊かな森が一日も早く復活することを願いたい。
ちなみに下のガスマスクの写真は最終日に撮影した。
特に装着する必要もなかったのだが、まぁ記念ということで。
11:45、錆ヶ浜港へ帰還。
本当に午前中だけで探索を終えてしまった。
まぁいい、あとは釣りに専念しよう。
塩犬「どーっすか、調子は?」
怪人M氏「塩ちゃん、入れ食いだよ、すごいよ」
Mr.MUDさん「メジナ、ムロアジがバンバン」
塩犬「まじっすか!? 獲物見せてくださいよ!!」
何やら複雑な表情を浮かべる二人。
ん? いったい、どったの?
(外道編に続く)
未開のエリアがどんどんなくなる地球で、天変地異によって荒廃したエリアが新たな冒険対象となるのでしょうか。
冒険心に富んだ、塩犬さん御一行様のアドベンチャーに乾杯!
wakiさん、コメントありがとうございます。
所詮林道ですし、すでに誰かが作った道なんですが自分にゃ丁度いいです。
未知の場所・食べ物ってだけで好奇心・冒険心が満たされます。
今年もあちこち行くつもりですので、よろしくお願いします。
三宅島TTレースネタ再び
石原都知事の三宅島TTレース構想を受けて、三宅村が今年、マン島TTレース視察に予