恐怖の東京ボロアパート2


これも昔住んでいたアパートの話。
高校を出て東京で一人暮らしを始めるにあたり、とにかく安い部屋をと思い、見つけたのがそのアパートだった。前回にも述べたが家賃は2万6千円。木造2階建ての2階西南角。6畳一間で共同トイレで風呂は勿論なし。地理的には西武新宿線野方駅から徒歩5分。新宿まで30分もあれば行けたので立地条件はよかった。とりあえず野郎一人住むには問題ない。夏の西日と冬の隙間風がちときつかったが住めば都。気楽に暮らしていた。
しかし。東京での一人暮らしはいろいろ事件が起こる。
まず最初は新聞拡張員との抗争。「俺は赤尾敏先生のとこの右翼だ」とわけのわからぬ脅しをされたこともある。
8割がたヤクザの身なりの拡張員とワヤワヤやり取りをした挙句に勧誘を断った時、「はやく引っ越したほうがいいぞ」とに捨て台詞を吐かれたりした。
さて、その夜。帰宅してドアを開けようとしたとき暗闇で何かを踏んだ。やわらかくて毛深い。生き物のようだが鳴き声もしないし動く気配もない。
「まさか猫の死体でも…」
緊張しながら電気をつけ恐る恐る確認すると、やはり猫だ。
「にゃあ♪」
生きている…。
なぜ踏まれたときには鳴かなかったのだ…? をい猫君。人間に踏まれたら鳴き給へ。呑気なやつめ。そのやうに気持ちよさせうに寝るものではなゐ。ものすごくドキドキしたんだぞ。いやはや東京というところはおっがねぇとこだなやぁ。と緊張をまぎらすためによくわからない独り言をゴニョゴニョ言ったりした。
またある日のこと。
便意をもよおしトイレへ駆け込んで絶句した。共同トイレの床一面にあろうことか大便が飛び散っていたのだ。あの光景は思い出したくない。文字通り飛び散り散乱していた。そのアパートは各部屋の扉に鍵がかけられるが、玄関から廊下までの出入りは自由という構造だ。共同トイレも廊下に面しており出入りは自由である。おそらく何者かが侵入したのか…。
ちなみに一階のトイレをのぞいたら二階のトイレを上回る惨状。ヒューズを隣から拝借した私の機転も今回は役に立たなかったのである。
また「腐れ酢だこ事件」というのもあった。
ある夏のこと。日に日にアパートが臭くなっていった。気のせいか蝿も多い。ある日我慢できなくなり、その臭いの元を探し始めた。どうやら玄関があやしい…。
「ぐわっ!」
床下に発見したのはパック詰めの酢だこであった。パックはとうに破れているらしく我慢できないほどのひどい臭いである。パックの中では無数の蛆虫が蠢き、とても正視できる状態ではない。今しも中から一匹の蝿が外界へ飛び出そうとしていた。ああ、思い出すのもいやになる。結局放っておくわけにもいかず、ゴム手袋・マスク・長袖ジャージで完全武装し、その物体をビニール袋で何重にも包み捨てた。
そして最後にある冬のこと。
帰宅したらパトカーが三台ほど路地を埋め、アパートの入り口にはロープが張られていた。聞けば一階の玄関に一番近い部屋の住人が、自室で死体で発見されたとのこと。
「三ヶ月ほど旅行に行くので」と同じ階の住人に留守をお願いし、それ以来姿を消した。そして約三ヶ月。そのお願いされた人、友達が部屋に遊びに来て「何か臭くない?」といわれたそうだ。臭いをたどっていくと例の部屋。鍵はかかっておらず開けてみたら死後三ヶ月の餓死した屍。結局第一発見者となった。自宅で餓死…世が世なら即身仏である。とりあえず季節が冬でよかった。夏だったらあの酢だこの何倍も…。ぐへぇ…。この事件の後、さすがに僕も引っ越した。 半年くらいして。
兎にも角にも、東京はかくも恐い土地なのである。



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