ともにキャンプ場に宿泊することになったT氏。
とりあえずテントを張り、寝る準備が整ったのを確認した上で、 一杯誘った。
寝酒用に買っておいた勝沼ワインの白をあけ、雪印6Pチーズをつまみに乾杯。
ファミリーキャンプの花火や嬌声を無視しつつ、 脇に置いたヘッドライトの明かりの元、野郎二人のささやかな宴が催された。
彼は偶然にも私と同い年だった。これまで北海道や屋久島へ長期ツーリングに行った経験の持ち主らしい。
今回は一週間ほどの日程で北九州から富士山を見るために下道を通って来たのだが、 地図は大雑把な日本地図しか持ってないとのこと。
一応今日の昼間に富士山を見てきたが、雲が被った状態だったらしく残念がっていた。
その後、特に目的地も無くフラフラ迷走してここまで来たとか。
「ところでここって山梨県ですよね?」
まさにいきあたりばったり。バイクの旅はかくありたいものだ。
仕事のこと、バイクのことなど話したが、互いに疲れていたので10時に就寝。
周囲はうるさく、何度も管理人さんによる注意のアナウンスがされていたが、耳栓を持ってきていたお陰で熟睡できた。
翌朝5時まで一度も目を覚ますことなく、これまでにない快眠をむさぼって大満足。
疲れも吹っ飛び、一日中思う存分走れそうだ。今回はキャンプ場を選んで正解だった。
6時にはT氏も起き出し、互いに撤収の準備を開始。バイクの旅は「夜明けとともに行動開始」が基本である。
まだ周りのテントはほとんど目覚めた気配もない中、7時のゲート・オープンにはすでに二人とも出発の準備ができていた。
T氏は長野方面に、私は甲府方面の林道に。7時半、国道とのT字路で片手を挙げ互いの道へ。
縁があれば、またどこかで出会うこともあるだろう…。さらばさらば。
さて、今日の最初の目的地は小武川林道。キャンプ場から甲州街道を甲府方面にしばらく進む。
途中、コンビニによりサンドイッチで朝食を済ました。
午前8時、小武川林道起点に到着。名前の通り、小武川という川にそって作られた林道だ。
ところどころ川原にはテントも張ってあり、釣りをしてる人もいた。キャンプ帰りなのか何台もの四輪とすれ違った。
林道の先に温泉があり、もともと交通量が多い林道らしい。バスやタクシーさえ行き来している。
当然、路面は走りやすく、それほど困難な場所もない。
ただ走ってるだけでは飽きるので、退避スペースにバイクを停めて、しばし川原で遊ぶことにした。
流れる水は全て南アルプス天然水(笑)。 素足を浸しても数十秒と耐えられないほどの冷たさだった。
30分ほどのんびりし、9時に再出発。林道の奥にある御座石鉱泉に行き着いた。
軽い気持ちで「ヒトッ風呂浴びるか」と入浴を申し出たら、何と1260円。高っ! おまけに風呂も汚っ!
登山客向けの山小屋なのでそのような値段と設備なのだろうが、日帰り湯としては×。後悔することしきり。
気を取り直して林道にもどったが、しばらく行くと完全に舗装路に。
峠道だからウネウネとしたワインディングはあるが、正直、拍子抜けさせられた。
11時すぎには林道を抜け、とりあえず韮崎の市街地へ向かった。
次の目的地は林道前山大明神線。っとその前にスーパーで昼食の買出し。
昨夜のスパゲティで懲りているので、今日は調理なしのメニューを選んだ。
日が頭上から照りつける中、県道から広域農道を経て林道入り口へ到着。
「深い砂利・ギャップあり ダート10.2km」とツーリング・マップルにコメントがある。かなり期待できそうだ。
気合を入れて出発! 出発直後、一台の4WD車と二台のオフロード・バイクとすれ違った。
バイクの二人からピースサインされ、あわてて返すことができた。 一瞬のできごとだが嬉しいものだ。
孤独を求めてやってきた林道で人に出会って嬉しがるのも変な話だが、
相手も孤独を求めていることが分かってるので、互いに程よい距離感が保てるのだ。
これは昨夜のT氏との出会いにも通じる。
ベタベタ世話を焼かれるのはゴメンこうむるが、さらりとした親切くらいなら受け入れる。
バイクで旅をしてる人は、そんな人が多いように思う。
さて林道に入ってまもなく、眺望のよい空き地を見つけた。 時刻は12時20分。
ここで昼食をとることにした。暑い暑いと言いながらジャケットを脱ぎ、シートを広げスーパーで仕入れた品々にかぶりついた。
食べ終わってから、ちょっと寝転んで午後一時。出発。
そこから先も砂利にギャップ、轍に窪み。いろいろあったが、こけはしなかった。
支線も往復して無事完走。朝から林道2連発でかなり満足できた。
というわけで今日は林道おしまい。あとはオンロードで観光スポットを巡ることにした。
で、とりあえず来たのが、風光明媚な観光地「昇仙峡」。時刻は午後二時。
ロープウェイがあったので「パノラマ台」と呼ばれる頂からの展望を楽しむことにした。
展望を楽しんでいたのですが、ふと見るとロープウェイの駅の脇に祠がありました。
夫婦円満の神…「男女和合神」…? 女陰と男根の混合した姿のナラの木が御神体らしい。
ごもっとも様もそうだったが、やはり多いな、生殖器信仰。
で写真はこちら。
ズーム・イン!!
(モザイクいるか??)
3時半までのんびり観光を楽しんだ。さて、次はどこに行こうか。
昨夜はたっぷり寝たので体力に余裕がある。
また、いまから帰宅したところで大渋滞に巻き込まれるのが落ちだ。
ならば渋滞を避けるために帰宅時間を遅らせることを前提に考えて、 思い切って富士山を見に行くことにしよう。
目的地は河口湖に決めた。途中、甲府市街を抜けるついでにデジカメ用に128MBのSDカードを買った。
甲府を抜け、甲州街道をしばらく東へ移動し、国道137号を右折。
峠まで昇り続ける道を駆け上がる。反対車線にくらべずいぶん空いていた。
峠の長いトンネルを抜けると今度は下り。
一瞬だけ富士山と河口湖が見えたがすぐに視界を遮られた。
平地に至り、しばらく走ると河口湖畔。無料駐車場にバイクを停めたのが午後5時半。
すぐそばにカチカチ山ロープウェイというのがあった。見れば18時までの営業らしい。
急いで駆け乗った。名前の通り、このロープウェイのある天上山が童話カチカチ山の舞台なのだそうだ。
標高1104mから見た夕暮れ時の河口湖・富士山は美しかった。
短い時間だったが登ってみてよかったと思う。
頂上の展望台に白人の女の子のグループがいた。おしゃべりを聞いてみたが英語圏ではないらしい。
18時でロープウェイが営業終了してしまうことを知ってか知らずか、奥のポイントへ進もうとしていた。
気になって声をかけてみた。
おれ:Excuse me, can you speak English?
彼女たち :Yes?
おれ :Do you know the last ropeway in 6 o’clock?
たぶん、めちゃくちゃな文法と発音だっただろうが、どうにか通じたらしい。
Yeah,aha,とうなずいていた。分かってるなら、まぁいい。
きっとハイキングコースを歩いて降りるつもりなのだろう。あじさいの名所にもなってるコースらしいし。
結局最終便に彼女たちは乗ってこなかった。 日没前に降りたことを祈るばかりである。
さて腹もへったことだし、帰宅前に山梨名物「ほうとう」を食べていくことに。
実はまだ一度も食べたことが無く、実物がどんなものなのか知らなかったのだ。
走ってくる途中、ほうとう不動という名店っぽい店が混んでいたので、そこに決めた。
不動ほうとう、一人前1000円を注文。
色とりどりの野菜と、うどんとすいとんの中間のような麺(ほうとう)が白みそで煮込まれたヘルシーな料理である。
大して美味くないという声しかこれまで聞いたことがなかったが、どうしてどうして。
かなりの量で熱かったが全部たいらげた。期待以上に美味しかった。こんどは別の店のを食べてみたい。
食べ終わったのが午後7時。今から帰ればいくらか渋滞は解消されているだろう。
多少混んでいるようなら高速を使えばいいや♪
…と予想したが甘かった。抜け道を走っている間はよかったが、上野原で甲州街道に出たとたん大渋滞。
高速と立体交差する地点で確認したら、そちらもテールランプの長い列。動いている様子はない。
路肩が狭く、すり抜けも難しいが、できる限り前へ前へと急いだ。
しばらく進んだところで大型のバイクと併走。何kmかを互いにカバーしながら進む。
コンビニで休憩しようと左折したら、相手のバイクも付いてきた。
バイクを停めてジャケットを脱ぎ挨拶。
コンビニで買った缶コーヒーを飲みながら、しばし雑談。
年齢は私よりいくらか上だろうか。乗ってたバイクはBMWのR1150GSだった。
横浜からビーナスラインを走りに来たらしい。
オートバイは車と違い、自分の空間を閉ざすことができない。
だからこそ、 こういう何気ない出会いからも気軽な会話に発展できるのだろう。
一緒に走ってるというだけで、すでに同じ空間を共有し、通じ合うものが芽生えるのだ。
20分ほど休憩し「そろそろ行きますか」と走り出す。
少し進んだ相模湖畔の交差点で、神奈川方面との分岐があった。
後ろのBMWをちらりと振り返ると、目が合った彼がこくりとうなずいた。
自分もうなずき返して前を向く。バックミラーには停車して右折のウインカーを出してるBMWがいた。
また一人に戻った。自宅まであと50km。幸い道は空いてきた。
スピードを上げ、甲州街道をひたすら東へ。
今度はどんな出会いが待ち受けているのだろう…。