氷の七日間・三日目


6:00、起床。
最低気温はマイナス5度程度か。それほど寒くない。
できれば今日中に稚内へ到着しておきたい。
距離を稼ぐため出発を急ごう。朝食は取らずに撤収開始。

道の駅・絵本の里けんぶち

道の駅・絵本の里けんぶち

路面はこんな感じのコンディション

路面はこんな感じのコンディション

8:20、黒い路面に足をついて滑らないことを確認して出発。
気合を入れて国道に出た直後、わずか50mほどの地点で早々に転倒してしまった。
パッと見でドライな路面と区別がつけにくい恐怖のブラックアイスバーンに乗ってしまったようだ。
十分注意していたつもりだったが、気付いた時にはもう遅い。
後続のMr.mudさんも僕を避けようとして転倒してしまった。
割とスピードが出ていたため、二人ともそろって10mほど滑走。
停止するまでカーリングのストーン(玉)の気分をしばし味わった。
対向車を運転していたおばさんが目をまん丸にして通り過ぎてゆく。

左の薄茶色の建物の前辺りで転倒

左の薄茶色の建物の前辺りで転倒

とりあえずバイクを起こす。体もバイクもダメージはほとんどない。
タンクバッグの手製マップケースが壊れたくらいか。しかし精神的なダメージは大きい。
Mr.mudさんはともかく、自分のセローと技量ではこの路面コンディションは辛すぎる。
今日中に稚内にたどり着ける自信が全くなくなった。
「もう一度転んだらリタイヤしたいっす…」とMr.mudさんに弱音を吐くと、
「左端の路肩を進んで、行けるとこまで行ってみましょう」と諭された。
どうもこの人は諦める気などさらさら無いようだ。仕方ない、進もう。
後から思えばこの時が私のモチベーションの谷底であった。
路肩に雪が残る僅かな部分から、なるべく外れないよう集中して走る。
少しでも危ないと感じたら両足を出してバランスを取る。
この後、走りに没頭していたため道中のことは余り覚えておらず。
R40を1kmでも2kmでもとにかく北上。やがて士別を過ぎ、名寄へと至った。
名寄バイパスを使おうと思ったが、路面状況が悪そうだったのでパス。
10:15、道の駅・びふかを過ぎた辺りで、Mr.mudさんが停車した。
写真撮影が目的だったらしいがエンジンが再始動せず。
結局、チョークを戻してアクセル全開にしたところ始動した。
いわゆるカブリを防止するための手順である。うーむ…。

美深森林公園の辺り 轍なんて大キライ

美深森林公園の辺り 轍なんて大キライ

エンジンを一度停止させるとすぐ冷えちゃいます

エンジンを一度停止させるとすぐ冷えちゃいます

さらに10:55、音威子府手前のちょっとした峠道で再トラブル発生。
Mr.mudさんが足元もバイクもオイル塗れになってしまった。
エイプのヘッドのガスケットからオイルが吹き抜けてしまったようだ。
mudさんによるとブリーザのホース内の凍結により内圧が高まったためらしい。
山中の雪捨て場でタンクを下ろして修繕作業。

この先のアップダウンでエイプにトラブル

この先のアップダウンでエイプにトラブル

ガスケットが外れてオイル塗れに…あーあー

ガスケットが外れてオイル塗れに…あーあー

寒い中、一心不乱に作業してるmudさんの姿を見て、いろいろ啓発される。
こりゃあリアイアできねーなぁ…と温かいお茶を啜りながら思った。
一通り作業が済んで再始動させようとしたがまたエンジンが掛からず。
作業中に電気周りのソケットが外れて一箇所外れてしまってたらしい。
何度もキックしてるのにヘッドランプが点かないのを見て気付いた。
やれやれ。いろんなところに罠があるなぁ。

Mr.mudさんの作業中、暇なのでボーっとしてます

Mr.mudさんの作業中、暇なのでボーっとしてます

再出発して数分後、12:10、音威子府駅に到着。
ここから稚内までの距離は約120kmである。先が見えてきた。

音威子府駅 旭川と稚内のほぼ中間

音威子府駅 旭川と稚内のほぼ中間

駅前の様子 当り前だけど雪で真っ白

駅前の様子 当り前だけど雪で真っ白

有名なここの駅そば・常盤軒で予定通り昼食。天玉そば500円とおにぎりを食す。
ここの蕎麦は色が黒く腰の強い独特な麺を使ってる。出汁もよく効いてて美味い。
事前に電話まで掛けて年内営業してるのを確かめた甲斐があった。

音威子府の駅そば・常盤軒

音威子府の駅そば・常盤軒

黒い駅そば とっても(゚д゚)ウマー

黒い駅そば とっても(゚д゚)ウマー

食べ終わった後はひたすら稚内を目指す。
天塩川沿いに幌延まで下り、豊富方面にさらにR40を北上。
ドライな路面はほとんどなく、ほとんど路肩走行である。
しかし交通量が少なくて助かった。
稚内が近づくにつれ、ようやく気持ちに余裕も出てきた。

天塩国道をひたすら北上

天塩国道をひたすら北上

太陽が傾き始めたけど先は見えた!

太陽が傾き始めたけど先は見えた!

この路面状況もいつか終わりが来る…はず…

この路面状況もいつか終わりが来る…はず…

全面氷結した天塩川 ここまで凍るのか…!

全面氷結した天塩川 ここまで凍るのか…!

15:00、稚内市街に到着してまずは給油。
R238との交差点を過ぎた辺りから黒い路面が現れた。
リアがずりっと滑り緊張が走る。ここでもブラックアイスバーンか。
夕方になって気温が下がり、昼の間に解けた水が凍ったようだ。
両足をだして慎重に走り、R40の終点を通過。
15:25、北防波堤ドームへついに到着。
今日予定していた幕営地である。ここまで来れば宗谷岬はすぐそこだ。
苫小牧で別れたXLRさんと再会。隣へテントを張ってから買出しへ。

稚内のシンボル・北防波堤ドーム

稚内のシンボル・北防波堤ドーム

昭和初期、樺太航路のために作られたそうです

昭和初期、樺太航路のために作られたそうです

テントを張ってひと段落 ほっ♪

テントを張ってひと段落 ほっ♪

セローのフェンダーなど凄い状態に…

セローのフェンダーなど凄い状態に…

16:10に出発し、駅前のスーパーで色々買い込む。
店内は地元の方々の歳末買出しで大賑わいだった。
余りお酒が置いてなかったので、駅前の売店へ行き土産用の焼酎を購入。
ついでに日本最北端の稚内駅も記念撮影。

JR宗谷本線・稚内駅

JR宗谷本線・稚内駅

日本最北端の駅だそうです

日本最北端の駅だそうです

16:55、北防波堤ドームに帰還。
今日の突き出しはホッケの飯寿司とえびかつ。
飯寿司(いずし)は、北陸以北の日本海側と北海道の寒い地域で冬に食される”なれ寿司”の一種らしい。
それらをつまみながらメインディッシュの鍋を作りつつ、グビグビ飲む。

えびかつを前に、まずはビールで乾杯!

えびかつを前に、まずはビールで乾杯!

ホッケの飯寿司 初めて食べたけど乙な味です

ホッケの飯寿司 初めて食べたけど乙な味です

続いて僕がこれはどうしても食べてみたかった「たちかま」。
「たち」はタラの白子のことで、それを蒲鉾風に加工した食べ物である。
北海道でも岩内や利尻で、冬の寒い季節にのみ作られる超レア食材。
日持ちしないため流通に乗りにいが、稚内のスーパーでなら入手できるという情報を事前に得ていたのだ。
それでも自分が購入したのがそのスーパーの最後の一袋。
翌日以降も立ち寄ったスーパーで探しはしたが、ついぞ見かけることはなかった。
さて、そのたちかま。
裏に書かれた調理例に従い、フライパンでバター炒めにしてみた。
食べてみるとフワフワした食感。ハンペンに似た歯ごたえ・味わいだった。
白子独特の風味が鼻に抜けて、面白い味である。

利尻名産たちかま 冬にのみ入手可

利尻名産たちかま 冬にのみ入手可

たちかまのバターソテー メチャ(゚д゚)ウマー

たちかまのバターソテー メチャ(゚д゚)ウマー

ところで、ここいらでお酒が焼酎に変わったのだが、また問題発生。
購入した「りしり」という焼酎があろうことか昆布風味なのである。
お湯で割るとアルコール入りの御吸い物を啜ってるかのような味に…。
それでも他に飲むものがないので、二人でやいのやいの言いつつ飲み続けた。

本格焼酎・りしり お勧めできません

本格焼酎・りしり お勧めできません

鮭の刺身をワサビ醤油で 今日は贅沢だなぁ

鮭の刺身をワサビ醤油で 今日は贅沢だなぁ

最後に登場したのが今夜のメインディッシュ、鮭とホタテの味噌バター仕立て鍋。
北の果てでの幕営に相応しい、こってりした味わいの具沢山鍋だ。
締めに今日もうどんを投入。うーん、美味い! 体が内側から温まった。

鮭とホタテの味噌バター鍋 コッテリ(゚д゚)ウマー

鮭とホタテの味噌バター鍋 コッテリ(゚д゚)ウマー

〆に今日もうどんを投入 美味すぎる

〆に今日もうどんを投入 美味すぎる

食べ終わり、テント内で横になって雑談タイム。
よく覚えてないが、確か「味噌とバターなら何でも美味くなる」という結論だったような。
ともかく、ここまで来れて良かった。自分ひとりなら途中で諦めていたに違いない。
引っ張っていただいたmudさんに心の中で感謝しつつ就寝。
晦日の夜、子守唄にしてはちと騒がしい波と風の音が響いていた。



コメント

氷の七日間・三日目 — 2件のコメント

  1. こんばんは、
    最近林道検索でいろいろと探し始めてたら
    このページにきちゃいました
    Rindou Huntarさんからのリンクで来ました
    こんなツーリングを選択する方がいるなんて
    すごいです! これは 修行ですね
    見ていてコメントを書き込まずにはいられない
    気持ちになりました。北海道寒そうですね
    静岡は雪がほとんど降りませんので
    雪の中を走るなんて創造が出来ません。

  2. はじめまして、静岡林道まんさん。コメントありがとうございますー。
    みしぇるんでげおちぇろさんのとこから、おいでくださったんですね。
    私も静岡出身なんですが、自分がバイクで雪の中を走るなんて、
    ましてや冬の北海道の最北端まで行くなんて静岡にいるころは思ってもいませんでした。
    ま、我々以外にも何人もいました。世の中、物好きな人は多いようです(笑)

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