興奮しているためか、ほとんど眠れずに迎えた朝。
ホテルの窓から眺めた佐久の町は、重苦しい雲に包まれていた。
午前6時。曇天。今日も天気予報は降水確率50%。
昨日と同じ降水確率だがやばそうな予感がした。
ホテルをチェックアウトして近所のコンビニでオニギリを頬張り覚悟を決めた。
とりあえず向かうのは群馬方面。行ってみて晴れていれば林道へ。
雨なら埼玉に抜けて帰途に着くつもりだった。
少し走って、群馬との県境にある山々をちらりと見たが、山頂は雨雲に覆われて見えない…。
山の手前からポツポツと降り出し、山道を少し登ったところで雨具を装着した。
その先ずっと霧雨、いや雨雲の中を走ることになろうとは…。
不幸中の幸いはゴアテックスの雨具とGPSの存在である。まさに文明の利器。
早朝の山奥。 ほとんど誰とも出会わないままいくつもの峠を越えた。
深い霧に覆われたトンネルや森林に、なんともいえない不気味さを感じる。
(さすがに林道はやばいな…)
僕のビビリミッターが作動した。群馬の林道中止っ! だって怖いんだもん。
舗装路でさえ「土石流注意」「この先崩落のため通行止め」なんて看板がちらほらあるのだ。無理はしないに限る。
南の空の方が、ここよりは雲が薄い。素直に埼玉・東京を目指すことにした。
えっちらおっちら国道を通り、秩父へ到着。
すでに雨は上がっていた。雨具を脱ぎ、街中のジョナサンで飯。
この時点でまだ午前10時半。このまま帰宅じゃ物足りない。
ドリンクバーの「からだ想い」を啜りながら、 ツーリングマップとにらめっこ…。
迷った挙句、名栗経由で奥多摩・日原林道へ行くことにした。
(林道といっても東京都内だし、奥多摩なら多少土地勘もあるから平気だろ)
また飽きもせず、うねうね峠道を上って下り奥多摩へ。
時々思い出したように雨が降るので、奥多摩駅前で雨具を再び着た。(この後、帰宅まで脱ぐことはなかった…)
国道から分岐した日原街道…とても都内とは思えない。
ガードレールはほとんど無く、大型車とすれ違うのも一杯一杯。
林道も推して知るべし。昨日の中津川林道とは比べようないほどの悪路だった。
道路のあちこちに大きな窪みがあり、水溜りを縫うように走らねばならない。
大人の頭ほどの落石もゴロゴロ転がっている。
楽しいことは楽しいが、気を抜くと思いっきり転倒してしまうだろう。
足元もリアキャリアの荷物も泥だらけだ。
ん?
行く先を一瞥すると、道路の下の断崖に子馬のような銅像が…と思ったらカモシカだっ!!
バイクを置いて崖を覗き込むと、向こうもこっちを見上げてた。
ニホンカモシカ:Japanese Serow。
そう。僕のバイク「セロー」はカモシカに由来するのだ。(ヒマラヤにすむカモシカだけどね)
初めての林道ツーリングで、愛車ゆかりの特別天然記念物に会えた事に感動。
親しげに手を振ると、向こうはそっぽを向き谷間を眺め考え事を始めた。
…むぅ。確かに都内じゃ人間などたいして珍しくもなかろう…。別れを惜しみつつ先を急ぐ。
午後1時。日原林道の終点に到着。ゆっくり休憩。
…と思ったが先客が。ランドクルーザーに乗った家族連れだ。
小雨の降る中、ご丁寧にもテーブルと椅子を出してランチの準備中らしい。
挨拶しても迷惑そうな沈黙しか帰ってこない…。やっぱ都内だわ、ここ。
早々に来た道を戻ることに。帰途、件の断崖を覗いたが、既にカモシカは消えていた。
さて、その後はふらふらと観光名所でもある日原鍾乳洞へ。時刻は午後2時半。
中で外国人に「水琴窟」について聞かれ、解説など。(日本語で)
ってか、 中の階段がきつすぎっ!! へとへと。まじで。
鍾乳洞から青梅街道まで、 バイクに寄りかかるように運転して来た。
帰路は日曜夕方の青梅街道名物・渋滞だった。
もう覚悟してたから愚痴も出ない。慣れてるし…。
午後7時前にようやく帰宅。無事で何より。
疲れたが、実に楽しめた二日間だった。
さて、次はどこに行こう。