4月1日


今日は4月1日。今年もいよいよ新入社員を迎える季節である。
とはいえ小さな会社である。今年は専門学校卒の女子が一名だけ。奥菜恵に似た小柄で明るい娘さんである。聞けば戌年生まれとのこと。知らぬ間に一回りも違う人間と仕事をするような年になっていたのだ。感慨深いものがある。
とりあえず社長から簡単な訓示と自己紹介。すぐ済む。席は私の隣に決まった。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
ミントの香りがする。よい。なかなかよい。ファーストインプレッションはかなりの高評価である。 「あなたは磯野貴理子のようだ」と最大級の賛辞を贈ろうかとも思ったが、人によっては誉め言葉と捉えてくれない人もいるので黙っておいた。
さて新入社員の最初の仕事は自分のPCのセットアップである。PCはメーカー製の完成品だし慣れていれば簡単だ。彼女は自分でPCを所有しているらしく、ネットワークの接続も含めて午後には完了していた。その後はこれまで開発してきたシステムの資料などを眺めてもらった。
その途中、昼休みに食事に出かけた時のこと。
婦女子と親しくできるめったにない機会でもあり先輩としての第一印象をよくするためにもと思い、見栄をはり奢ることにした。
「Aランチふたつ、食後にコーヒー」
しめて1600円也。和風ハンバーグランチを食した後、珈琲を飲みながら簡単な会話を敢行した。
「いかなる趣味を持っているのか」
「なぜこの会社を選んだのか」
「どのような目標を抱いているのか」
これはしたり。まるで面接ではないか。「彼氏はいるの?」「バストのサイズいくつ?」などのようなセクハラ裁判への入り口になりかねない愚問は何とか避けたが、それほど打ち解ける会話には至っていない。思いのほか話題選びに悪戦苦闘した。その結果、事態は意外な展開を見せる。
私が麻雀を嗜む旨を伝えた時だ。
「あら、私もネット麻雀やってますよ、東風荘」
むむ。麻雀を打つのか。しかも東風荘。
寄らば大樹の陰という傾向の持ち主かもしれぬ。やはり巨人ファンで大鵬と卵焼きが好きなのだろうか。
ともかく私の興味は一点に収束する。
「ほぉ、それじゃ今度対局してみようか」
「ええ、ぜひ」
こうして東南と東風を舞台に、ホーム&アウェーでの対局を約した。素晴らしい。予想以上に後輩との親睦は深まったのだ。私は満足げにコーヒーを一口飲んだ。
しかし。
ここから事態はさらに意外な展開に! と、ガチンコとかいう番組なら煽っておいてコマーシャルなのだが、話はこのまま続く。
彼女も珈琲を啜り上目遣いに私の表情を見た。ふと彼女はニンマリと笑みを浮かべ、一言つぶやいた。
「ひっかかった…」
私は怪訝な表情を浮かべた。何のことだ。
「先輩、ひっかかりましたね」
「ん?」
「今日は何の日でしょう♪」
「…」
四月馬鹿というやつである。漫画などのネタ以外に実行する者がいようとは。目の当たりにしたのはこれが始めてである。
「…エイプリルフールというやつか?」
「ピンポーン♪」
あっけらかんと言ってのける。入社初日にしてこのような荒業を繰り出すとは、かなりの大物である。
「あなたは磯野貴理子のようだ」と言ってやろうかと思った。勿論悪い意味で。
「私、麻雀なんかしたこともないんです♪」
かなり悔しい。私も誰かを騙さなくては気が晴れぬ。それから一日中、私は嘘を考え、騙されそうな相手を探した。そして。
いました。
見つけました。
私の嘘でも騙されてくれる方。
それは。
ここまでの嘘を信じてくれたあなたです。
全部嘘ピョン♪



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