一年の計は元旦にあり


年明けの直後、携帯電話がつながりにくくなるのはもはや常識である。
『あけおめ』メール、『あけおめ』コールのやり取り過多によるものだ。
各キャリアによる『控えてください』というお願いも近年は周知徹底されている。
今年もその例に漏れず、時間帯による送信制限も設けられたようだ。
さて、ここに一人の男がいる。
『年明けたら、またメール送りますんで』と某看護士タンに約束した男である。
大晦日から元旦に掛けて相手は夜勤のはず。
仕事中だが「夜勤おつかれさま」のねぎらいメールくらいなら邪魔にもなるまい。
そう思って、かすかに除夜の鐘が聞こえる中、携帯電話を手にしたのだが…。
「くっ…全然つながらん…」
年末年始で実家に帰省中の僕は苦悶していた。
実家は、ただでさえvodafoneのアンテナが一本立つか立たないか。
普段から通話中にブチブチ切れるような劣悪な電波状況である。
それが年末年始のパケット渋滞でさらに悲惨な状態になってしまった。
メールを比喩するモニタの紙飛行機は飛ぶ気配すらない。
「じゃあ電話で」
と、電話を架けてみたが、呼び出し音だけで応答なし。
仕事中なら留守電モードにしてあるかと思ったが、それにも切り替わらない。
着信履歴だけでメッセージでも残せず。このままではちと痛い。
「こうなったらPCから送るか…」
実家のネット環境は携帯電話以上に酷い。
AirH”が完全圏外のため、ネットへの接続はダイヤルアップしかない。
アナログ56kbps。ADSLや光ファイバーに慣れた身には辛すぎる接続速度だ。
JPGがベタベタ貼り付けられたツーレポなど、開くだけでうんざりする。
「もっと軽いサイトを心がけた方がいいかなぁ」
おっと、反省してる場合じゃない。
メーラーを立ち上げて、いつものアドレスから送信っと。
「ん? 失敗?」
何度メールを送ろうとしても、送信に失敗してしまう。
もしやと思い、プロバイダのサイトで情報収集。
『ダイヤルアップでメール送信する場合は、プロバイダの提供するサーバー経由のみ』
つまり、プロバイダのメールアドレスしか使えないらしい。
いや、認証に成功すれば送信元が別アドレスでもいいのかも知れないが、
とにかくプロバイダのメールサーバーに接続する設定情報は手元に無いのだ。
メーラーから送信するのは諦めるしかない。別の手段を探ろう。
「telnetかな…」
UNIX系のサーバーへの接続に一般的に使われるプロトコルがtelnetである。
そいつで自前のLinuxサーバーにログインして、mailコマンドで直接送信。
これならプロバイダの制限には引っかからない。
ただし、日本語はエンコードする必要があるので避けるべきか。
ってことで、デスクトップからtelnetクライアント・TeraTermを立ち上げた。
アナログ回線のためレスポンスがワンテンポ遅いが我慢我慢。
“A Happy New Year! ;-)”と英文の『あけおめ』メールを一応送信した。
「英語はできるって言ってたよなぁ…」
そう思いつつも少々不安が残る。
送信元アドレスのドメインもs-dog.netではないし、胡散臭く思われるかも。
やはり、ここは日本語で送り直したい。
年が明けてだいぶ時間が経ったが、まだ携帯メールは飛ばせない。
「よっしゃ、PHPでやったるか」
WEBでよく使われているプログラム言語・PHP。
僕も仕事で使い慣れており、日本語メールの送信もお手の物。
その気になれば簡単なはず、と情報サイトを検索。
もはや手段と目的が逆転している気もするが…、否、気にしてはならぬ。
サイトを参考に10行ほどのスクリプトを書いて、FTPでサーバーにアップロード。
まずはテスト用に自分の会社のアドレスに送信。オッケー、成功。
続いて、送信先を彼女に変更して…オッケー、送信完了。
「ふぅ」
元旦未明から、全く何をやってるんだか…。
だが、まぁ目的は果たせた。
微妙な達成感に包まれつつ、僕は眠りに付いた。
彼女から返信が来たのは、その日の夕方である。
『夜勤はこれからです…』
元旦から勝手な勘違いで思いっきり空回り。
一年の行く末がとても不安だ。



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です


*