草木も眠る丑三つ時。何故か僕は名古屋で行列に並んでいた。
事の発端はその日の朝にまで遡る。
紅葉の始まる季節。この週末は全国的に晴天との予報だった。
早朝から信州方面へ出掛ける予定だったのだが何故かバイクの鍵が見つからず。
ようやくツーリングパンツのポケットから発見されたのは、既に信州キャンプツーリングを諦めた頃。
今日・明日どうしたものかなぁ…とネット閲覧で気を紛らわしてると衝撃の情報が目に入った。
甘口スパゲティや巨大カキ氷など絶大なインパクトのメニューで全国的に有名なお店、喫茶マウンテン。
B級グルメの聖地、名古屋の霊峰とも呼ばれるその店が耐震工事のため11月5日から休業するとのこと。
この冬に遠征するつもりだったが、再開は来年の春らしい。むむぅ、これは休業前に行かねば!
ってことで喫茶マウンテン他、なごやめし食い倒れツーリングが行き当たりばったりで決定した。
出発前、土曜日の昼飯は高田馬場のラーメン二郎で済ませておいた。
いつもの通り小豚・野菜ニンニク唐辛子。これで胃袋がいくらか大きくなったかな。
13:30、出発。荷物は地図とGPSと念のためのフリースのみ。
キャンプ道具はおろか、雨具も工具も持たず。
13:55、東京ICから東名高速道路へ乗り、一路西へと走る。
15:20、富士川SAで給油。16:10、小笠PAでトイレ休憩。
17:15、上郷SAでもう一度給油し、17:40、名古屋ICで一般道へ降りた。
そのまま県道60号で今池へ赴き、18:00過ぎにカプセルホテル・ウェルビー今池にチェックイン。
一泊4,100円&駐車場代500円。朝食はサービスで付いてくるらしいが、今回はあえて断った。
さて。落ち着いたところで今池市街探索に赴く。
夕闇に包まれた町で、まずは大丸ラーメンの位置を確認。
大丸ラーメンは今回必ず訪れたい店だった。
後述するが、喫茶マウンテンに比肩するアミューズメントスポットである。
営業時間は2:00AMから5:00AMという、とんでも無い時間帯。
こんな機会でもなければ食べられないだろう。
で、その場所だが、事前にGPSにポイントを登録しておいた。
それを手にして近辺をグルグル歩き周るがそれらしい店舗は見つからない。
念のため携帯電話で情報を検索して位置を確かめたが、この辺りに間違いない。
『外観からは判別困難だが深夜になれば行列が出来て一目瞭然』らしい。
仕方ない。深夜にぶっつけ本番で探すとしよう。
続いて、この近くにある台湾ラーメンの元祖の店・味仙の場所を確かめる。
これはすぐに判った。すぐ近くに都合よくとんちゃんを看板に掲げる店があった。
晩酌はその店、やぶ屋・今池西店に決定。とんちゃん600円と生ビール、キャベツの一夜漬けを注文。
とんちゃんとは有体に言えば豚ホルモンを八丁味噌ベースのタレを絡めたもの。
鉄板焼きが一般的だと思うのだが、この店は七輪の網焼きが特徴らしい。
焼き方マニュアルに従い、一味とニンニクの利いたタレと良く混ぜる。
混ざったら一枚ずつ丁寧に広げながら網に並べる。ゴソっと置いたりしてはいけないらしい。
ビールでもチビチビやりながら待ち、丸まったら食べ頃。んー、んまい♪ビールによくあう。
もう一杯ビールをお代わりして軽めの晩酌終了。
深夜に待ってる大丸に備え、控えめに抑えておいた。
締めに味仙へ移動して台湾ラーメンを注文。思ったよりもずっと小ぶりの器だ。
いつもなら量が少ないと嘆くのだが今日は特別。満腹にならずに助かった。
位置づけとしては数ある中華料理のメニューの一品に過ぎないのだろう。
ニラと挽肉が辛いスープによくあう。坦々麺以上にスパイシーだ。
汗だくになってサクッと完食。ふぅ、美味しかった。
20:00頃、カプセルホテルに戻り、一風呂浴びて一服。
山ほど揃えてある漫画の中から釣りキチ三平を二巻ほど読む。
22:00くらいから仮眠をとったが、なかなか寝付けず。
そして日付が変わって、1:45。やおら起き出し、着替えて外出。
表通りの目星を付けた場所には情報通り行列ができていた。
昼間は廃墟同然なのに夜闇が訪れると魑魅魍魎で賑わう…。
『千と千尋の神隠し』の冒頭シーンを髣髴とさせるその様は、まさに魔境と呼ぶに相応しい。
店内はカウンターの6席しかないので、どうしても回転が遅くなる。
並んでいるグループを観察してみると、順番が来たと同時に列を離れる人々がいた。
どうも大丸未経験者を生贄に連れて来た経験者のようだ。
ここまで来て本人は食べずに『がんばれよ』と背中を押すのがその役目。
喫茶マウンテンのシェルパに相当する存在か。
ちなみに目の前のグループには一人、物凄い美女が混ざっていた。
うひょー。意味も無く盛り上がる。
20分ほど待って、いよいよ僕の番がやってきた。
着席する前からオヤジのマシンガントークが始まる。
「もう麺四人分6玉茹でてるでね。荷物はそこに乗せて下さい」」(※1)
「みんなラーメンでいいですね? うどん? 1玉でいいですか?」(※2)
「そっちのお客さん、すみませんが後ろからうどん玉を取っていただけますか」(※3)
「そちら、量多くてもいいですか? よーけいれましょうか?」(※4)
「はい、立って下さい、こぼれるで布巾でドンブリを持ってカウンターに下ろしてください」(※5)
※1 一人1.5玉が標準。量が増えることはあっても減ることはまず無い。
※2 ラーメン屋だがうどんやそばやきしめんもミックス可能、『麺無し』にすら応じるらしい。
※3 店内が狭いこともあり、冷蔵庫前の席に着くと雑用を言いつけられる。
※4 どれだけ増やしても価格は550円。具の好みにも応じてくれる。油断すると増えてる。
※5 座ったままでも大丈夫だろうがオヤジさんの言うことは素直に聞かねばならない。
噂通りの一連のやり取りは、まるで一種独特の様式美で完成された通過儀礼だ。
この体験だけでも名古屋まで足を運んだ甲斐がある。
そして僕の目の前にもラーメンが置かれた。(自分で下ろしたのだが)
当面の敵はモヤシである。ただ茹でただけで味が全く無い。
しかも必要以上の山盛りだ。このモヤシをまずやっつけねばならない。
カウンターに置かれたソースや胡椒などの調味料、各種ドレッシングから醤油を選び、ぶっ掛けた。
3分の1ほど片付け、モヤシの下から現れたのは竹輪・蒲鉾・ナルトの練物連合軍。
ただ切っただけで特別な味付けを加えていないのでこれは普通に食べられる。
その下には甘辛い味付けをされた謎の肉が敷き詰められている。
缶詰の肉っぽいという前情報だったが僕的にはなかなか美味いと感じた。
スープは醤油と昆布ダシがベースらしいが体調を考えてほとんど飲まず。もちろんレンゲなど無い。
そして最後に待っているのが本丸の麺。ここに到達するまでの間にだいぶ伸びている。
量もたっぷり。ラーメンだけのはずだが、うどんの切れ端も混じっていた。
全体的には昼間食べたラーメン二郎と丁度互角の量だろうか。
麺と具を無事完食してご馳走様。心地よい達成感だが、さすがに食べ過ぎた。
明日の朝食を食べきることが出来るだろうか…。
代金550円を支払うと、「はい、これどうぞ」とガムを1パッケージ頂いた。これもこの店のお約束。
ドラえもんの横に「サイバーパンチ味」と書かれたそれは強烈な甘い香りを放っていた。
外の行列はずいぶんと伸びていた。土曜の夜は4:00くらいで麺がなくなることもあるという。
そうでなくても5:00近くなると『残していいから早く帰ってくれ』と急かされるそうだ。
また、開店前に並んでいても『まだ時間が掛かるから他所で食べた方が良い』と言われるらしい。
理由は…謎ということにしておこう。取材拒否の店なので写真を撮る時はご注意を。
カプセルホテルに戻ったのは3:00頃。
それから一眠りして翌朝は6:00に起床。
顔を洗って着替えて、7:20、チェックアウト。
GPSを頼りに走って、7:35、喫茶マウンテンに到着。
憧れの看板と耐震工事を控えた店舗が待ち構えていた。
さぁ、地獄のダブルヘッダー、二戦目の火蓋が切って落とされた。
着席して注文したのは定番の甘口抹茶小倉スパゲティ。
飲み物は注文せず、あえて水だけで勝負することにした。
待つこと数分。やがて湯気を立てて緑の悪魔が現れた。
マウンテンでの食事は慣習的に『登山』と呼ばれている。
食べきれば『登頂』、食べきれない場合は『遭難』。
果たして『初登山単独登頂』は成功するのか。気合を入れて挑む。
まずは麺を一口…あまーーーーーーーーーーい! あますぎる!!!
最初の2・3口は「これなら楽勝かな」と思ったのだが、その先がきつい。
何しろ麺そのものがやたら甘いのだ。しかもとにかく量が多い。
実際に食べる前はトッピングされた小倉餡や果物、生クリームが難敵かと思ったが誤解だった。
この過酷な戦場に於いては、彼らは実に貴重な味方だと肝に銘じる必要がある。
食べるに従い咀嚼して嚥下するまでの時間が徐々に長くなる。
『旨い』という言葉は『甘い』が語源になっているらしいが、とても信じられない。
3分の2をクリアした辺りから段々と気持ち悪くなってきた。こめかみに鈍痛を感じる。
体が異常を察知したのか、全身から妙な汗まで吹き出てきた。
お皿を見ていると嘔吐感がこみあげて来るので、最後の方は窓の外へ目を逸らして食べた。
苦しみながらも何とか完食。頂上のさくらんぼが美味しかった。
甘味にうんざりして苦い飲み物が欲しくなった。メニューをもう一度見せてもらう。
アイスコーヒーやアイスティーが欲しかったが『加糖してあります』の注意書きを見てパス。
そういえば後から来た客が抹茶小倉スパと一緒にゴーヤジュースを注文していた。
もしかしたらそれが苦いのかもしれない。いや、きっとそうなのだ。
無難にホットコーヒーも考えたが、あえて勘にまかせてゴーヤジュースを注文。
そういえばここは名古屋の喫茶店。
うっかり忘れていたが飲み物にはオマケが付きものだった…orz
サービスのビスケットもミルクケーキも勿論甘い。本当に良かれと思って付けてるのだろうか。
そしてゴーヤジュースもしっかり甘口。罠以外の何者でもない。軽い人間不信に陥る。
苦痛を感じつつも意地で胃袋に流し込んだ。あぁー、きつかったー…。
危うく下山途中に遭難してしまうところだった。
8:20、しばらくお腹を休めるため、名古屋観光に出発。
昨日も思ったが、噂以上に名古屋の運転マナーは酷い。
車線変更でウインカーは一切出さず。
停止線超過に見切り発車、赤信号への駆け込みも当たり前。
マナーという概念自体が無いのだろうか…。
8:35、テレビ塔に到着したが営業時間前だったので名古屋城へ。
9:00、名古屋城に到着。
今日は名古屋まつりとやらがあるらしく、入園料が無料だった。ラッキー♪
中国人の団体に混じって内堀沿いを搦め手へと歩く。
加藤清正によって建造された石垣は緻密な堅固さを誇っていた。
狭い門を潜って本丸へ入り、天守閣へ。
中は驚くほど近代的に整備されていた。エレベーターまである。
展望台から各階の展示物をじっくり見て周る。
のんびりと腹の消化を促すがむかつきが収まらない。
売店で冷たいお茶を飲んでも好転せず。
時間だけが解決してくれるのか…。
10:20、名古屋城観光を終えて出発。
祭り準備で警官だらけの市街を走り、10:35、セントラルパークに到着。
他に行くところもないので750円を支払ってテレビ塔へ登る。
鉄網で囲まれた最上階は上空の風をそのまま感じられてなかなか良かった。
地上では祭りのためか露店が軒を連ねていた。
膨満感で食べ物を見るのも辛いのだが暇なので歩いて周る。
味噌串カツ、ドテ煮、味噌おでんなど名古屋っぽい店が多い。
リング焼きというのは初めてみた。こっち独特の粉モノだろうか。
鉄板に丸い輪を置き、その中に水と溶いた小麦粉と具を流し込んで焼いたものだ。
僕は未食だが東京中心に普及している『大阪焼』という粉モノがこれに近い存在らしい。
一個200円ってのは安いなぁ。こんなコンディションじゃなければ食べるのだが…。
露店を見終わって11:00。
そろそろ昼飯時も近いのだが、まだまだ食欲は戻りそうに無い。
栄の辺りであんかけスパや味噌煮込みうどんも考えていたが諦めよう。
R19で名古屋中心部を南下。途中、千寿大須本店に立ち寄って天むすを購入。
これはお土産というか帰り道で食べる予定。
12:00~14:00は店内で食事も出来るようだが、かなり混むらしい。
11:20、熱田神宮に到着。七五三や結婚式で大賑わいだ。
そういえば名古屋の結婚式は嫁入り道具や引き出物が派手と聞くが…。
白無垢の花嫁さんを眺めながらいらぬ心配をしてしまう。
由緒書きを探したが見つからず。まぁいっか。
御祭神は熱田大神(あつたのおおかみ)=草薙剣(くさなぎのつるぎ)の神霊らしい。
11:45、参拝を終えてもまだ腹が減らない。
一応昼飯を予定している店、あつた蓬莱軒本店へバイクで移動。
有名店だけあってもの凄い混雑だ。観光バスで来ている団体もいた。
順番待ちに相当時間が掛かりそうなので、とりあえず食欲が戻るまでしばらく時間つぶし。
堀川の辺、七里の渡し跡の公園を散歩。
12:20、少し落ち着いたので、様子を確認しに店へ戻ったが、混雑の状況は変わらない。
「予約した上で30分ほど経ったら店先に来て下さい、順番に名前をお呼びします」とのこと。
予約用紙に名前を書いて、また公園に戻る。
夏のような日差しの中、木陰のベンチで仮眠を取った。
「どえらい暑さだねぇ」とどこかで名古屋弁の会話が聞こえる。
そうこうしているうちに腹のむかつきもだいぶ収まった。食事も美味しくいただけそうだ。
30分経った頃、店先に戻った。しばらくして名前を呼ばれた。
靴を脱いで、店の中でさらに20分ほど待ち、ようやく部屋に通された。
早速、名物のひつまぶし2,520円と肝焼き840円を注文。(高いなぁ…)
肝焼きはすぐに出された。つまみつつ、ひつまぶしを待つ。
さらに15分ほど待たされて、ようやくひつまぶしがやってきた。
能書きに従って、十文字に切れ目を入れていただきまーす。
一膳目はそのまま、二膳目は薬味を混ぜて、三膳目は出汁でお茶漬け風。
老舗らしいしっかりしたタレが鰻と御飯に絡んで実に旨い。
昨晩と朝食の味を思い返しつつ、普通の食事のありがたさを実感した。
食べ終わって、14:10、さて、帰ろう。
高速道路だとつまらないので、R19=木曽街道を走ってみることにした。
名古屋市街の中心部を抜け、多治見方面へと北上する。
この間も名古屋の交通マナーの悪さに辟易させられた。
15:00、内津峠を越えて岐阜県・美濃地方に入った。
それからもしばらくは灰色の町並みが続いた。
多治見から土岐を過ぎ、瑞浪の辺りから少しずつ田舎っぽくなってきた。
恵那から中津川へ入るといい感じの道になる。
恵那山が右手に見えるが、なかなか良い写真を撮ることができない。
16:15、長野県に入った。暮れてゆく木曽川沿いを遡る。
16:25、道の駅・賤母に寄り道。
おやきや五平餅が美味しそうだったが、さすがに今日はやめといた。
その後も見え隠れする木曽駒ヶ岳を眺めながら北上。
木曽福島の辺りに着く頃にはすっかり日は落ちていた。
給油を済ませてから、17:30、R361を右折。
フリースを着込んでから権兵衛トンネルへと向かう。
寒い寒い権兵衛トンネルを抜け、17:55、伊那ICから中央道へ。
あとはのんびりと帰京。18:15、諏訪湖SAで小休止。
19:45、談合坂SAで大休止。大混雑で席が全然空かず。
寒いのだが仕方なく外のテーブルで昼間買った天むすを食べた。
一つ一つが小さい分、御飯に比べて具の割合が大きい。
すっかり冷えていたが海老の風味が美味かった。
SAの先は渋滞だったがモゴモゴして、21:20、帰宅。
はー、二日間でいろいろ喰ったなー。本当にいろいろ…。
全く名古屋はディープでかんわ。
名古屋の名(迷)峰を無事に登頂できましたか!
(しかし、すごい早い時間から開店してるんですね…)
味を想像するだけで胸焼けが…(;´Д`)うぷっ
でも、その後のひつまぶしはおいしそー♪
emiさんも、ひつまぶしより甘口スパや大丸でしょう!
ウマウマですよ、ウマウマ!